脳梗塞-急性期治療
脳梗塞は、頚動脈や頭蓋内血管が動脈硬化で細くなり血流が悪くなる場合や、心臓や血管についた血栓が原因で起こる場合があります。また、太い血管が突然詰まってしまった場合は、4.5時間以内アルテプラーゼといった点滴治療も有効ですが、6時間以内の血栓回収療法も有効です。
経皮的血栓回収療法
カテーテルを血管の詰まったところへ誘導して、血栓を吸引したり、軟らかいステントを出して血栓を絡めて取り出したりします。すでに脳梗塞になった血管を再開通させても出血を起こすだけなので、脳梗塞発症後、6時間以内の治療となります。
脳梗塞の慢性期治療
頸動脈狭窄症による脳梗塞
脳梗塞のタイプは様々なものがありますが、頚部頚動脈硬化によるものは、再発する可能性が高いと考えられます。
狭窄率の少ないものに関しては、禁煙や、生活習慣の改善が第一ですが、狭窄率がある程度以上になると一定の割合で脳梗塞を生じるため治療適応となります。
1990年代に北米で行われた大規模臨床比較試験(NASCET,ACAS)の結果に基づいて国際手術基準が設定されました。これらの臨床試験で症候性頚部頚動脈狭窄では、狭窄率70%以上のうち32.3%が2年以内に死亡ないし脳梗塞に至り、狭窄率50~69%のうち22.2%が、5年以内に死亡ないし脳梗塞に至ったという結果を元に、手術合併症が6%未満の施設において症候性頚部頚動脈狭窄では50%以上の狭窄率を有する場合に、手術の有効性が認められました。
また、無症候性頚部頚動脈狭窄では、狭窄率60%以上の11.0%が5年以内に脳梗塞に至り、60%以上の狭窄率で手術の有効性が認められました。
脳梗塞の予防のための手術
治療方法は2つあります。
- 頚部頚動脈狭窄に対して、頚動脈を切開して動脈硬化を取り除く内膜剥離術(CEA)です。
- 血管内からカテーテルを用いて狭窄部にステントという金属のメッシュ状の器具を挿入して拡張したうえで留置する方法(ステント留置術)です。
どちらの治療を選択するかは、動脈硬化の性状や、狭窄の位置、患者様の御年齢、既往などを考慮して、安全な方法を選択しています。
内膜剥離術(CEA)の方法
全身麻酔下に行います。頚部に約10cmの切開をおき、頚動脈を十分に露出します。血流を遮断しつつ、動脈壁に切開をおき、動脈硬化部分を摘出します。血管を元通りに縫合して手術を終了します。手術後は、数日頚部の運動制限をします。合併症がなければ、10日前後で退院となります。
経皮的血管形成術
カテーテルを誘導して、狭窄部をステント(金属のメッシュ状の筒)や風船を用いて広げます。フィルター等を用いて、脳へプラークが流れるのを防ぎます。脳塞栓症(ゴミが飛んで起こる脳梗塞)、頸動脈洞反射(拡張時に起こる血圧低下、徐脈等の反射)、過灌流症候群(急な血流改善による出血、痙攣)等の合併症があり、病状が進行すると手技も難しくなるため、2回に分けて拡張を行うこともあります。
頭蓋内の太い血管が閉塞している方は、血圧の低下や脱水で脳梗塞を起こす危険が高いです。
脳血流の検査を行い、将来脳梗塞を起こす可能性が高い場合には、バイパス術を行うことをお勧めしています。
日本で行われた共同研究(JET study)では、症候性の内頚動脈および中大脳動脈閉塞あるいは狭窄症に対し、頭部画像上広範な脳梗塞を認めず、脳血流検査で安静時血流量が正常値の80%未満かつアセタゾラミド脳血管反応性が10%未満の脳循環予備能が障害された例では、外科的治療の有効性がみられました。
バイパス術(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)
手術後:吻合した血管からの血流が豊富に描出されています。
全身麻酔下で手術を行います。頭皮の血管(浅側頭動脈:太さ1.5mmほど)を皮膚から剥がして、その後開頭し脳の表面にある中大脳動脈(1mmほど)に顕微鏡下で吻合して1本ないし2本のバイパスを作ります。(4~6時間の手術)頭蓋骨を元に戻してプレートで固定し、皮膚を縫合して終了します。7-10日前後で抜糸します。
脳動脈瘤・くも膜下出血
脳動脈瘤は血管の弱いところが徐々に膨らんできて瘤になったものです。
稀には外傷や細菌感染等でできることもあります。破裂すると、くも膜下出血になり、水頭症(脳脊髄液の循環障害)や脳血管攣縮(血管が細くなり脳梗塞を起こしやすくなる)等の合併症もあり、2/3は死亡、寝たきりの不良な転帰をたどります。
一般的に5mm以上の大きいものや、形が不整なものは破裂する率が高いため、手術を検討します。開頭してクリップで瘤を挟む方法と、血管の中から詰める方法があります。
開頭クリッピング術
開頭手術は、数十年の歴史があり確立された方法です。全身麻酔下に、頭皮を切開、翻転し、頭蓋骨を露出して、頭蓋骨の手のひらの半分ほどの大きさを外します。動脈瘤は、脳のしわの間に埋まっています。
このしわを丁寧に剥離して、クリップで動脈瘤の根元の部分を閉塞すると、動脈瘤に完全に血流が通わない状態にすることができます。
コイル塞栓術
足の付け根の動脈からカテーテルを頸まで誘導し、さらにマイクロカテーテルと言われる細いカテーテルを動脈瘤の内へ留置します。
プラチナで出来た柔らかいコイルを詰めて、血液の流入を遮断する事で破裂を予防します。
頭を開けずに治療できる素晴らしい方法ですが、簡単で安全というわけではありません。
壁の薄い動脈瘤をしっかり詰める、屈曲蛇行した血管を介しての細かい作業ですので、出血や脳血栓症等の大きな合併症が起こり、死亡につながる場合もあります。
安全な手術のために
術中神経モニタリング(感覚誘発電位、運動誘発電位(SEP,MEP))
手術中に、運動機能が保たれているかどうか、電気刺激を行い、波形を確認するように努めています。
術後の運動障害を起こす可能性を少なくすることに役立ちます。
脳動静脈奇形
脳内や脊髄内にある動脈と静脈が異常に結合し、正常な脳や脊髄の血流異常を来す病態。
治療…脳血管内治療、開頭摘出術、放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ)
動静脈奇形により出血やてんかん発作、麻痺、頭痛などを起こす可能性があります。上記の治療法を組み合わせ、それぞれの患者さんに適した方法を選択することが大切です。
血管内治療は、開頭摘出術や放射線治療と組み合わせで行われる事が多く、カテーテルで異常血管の一部を詰めることで、あとに続く治療をより効果的に行うことができます。塞栓を行う材料としては、コイルや液体塞栓物質を用います。
脳腫瘍
血管の豊富な脳腫瘍で、特に開頭手術の術前に腫瘍内の血管を詰めておくことで手術の際の出血を最小限にすることができます。また選択的に腫瘍を栄養する血管に抗癌剤を注入し治療する場合があります。
その他
慢性硬膜下血腫、水頭症、頭部外傷等の治療もおこなっております。